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「なあ、ジョン!」
「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」
「なにしろ、迷ふんだな」
その子供染みた好奇心に輝いている横顔は、この老人の胸の奥から恐らくその年齢と調子を合せてゆつくりと流れて来る悦びのためもあつたらう。その悦びの源泉はもとより房一にあつた。
「ホリウチ?」
「え?いや、居ましたよ、居ましたけど、別に――」
「いや、これから往診に行くところだ」
「あん」
御大典とそれにつゞく奉祝日は瞬またゝくまに過ぎ去つた。
ふいに冷気が盛子の咽喉もとから胸の中へしみこんだ。その時、夢の中でよくつかめないながらも何か急に閃ひらめき過ぎる考へのやうに、これが結婚といふものか、これが仕合せといふものか、といふ思ひがどこからともなくやつて来た。しかもそれは考へた瞬間にさつと身をひるがへして去り、だが印象だけは強くのこる、あの微妙な閃きだつた。
「あ、いゝ、いゝ。なんでもありやしない。今すぐ行かう」
「や、さうですか。僕も今そこから帰るところです」
「ふん。何でもありやせんよ。大方、腹でも痛かつたんだらう」